お好み焼きのルーツは!?各地に残るご当地洋食焼きの世界

お好み焼きはルーツはもしかして・・・

前回、各地の「ハレ食」を調査している中で、ちょっと気になることがありました。それは「関西以外にも多くの地域で、お好み焼きの前身のような郷土料理がある」ということです。名称こそ各地で違いますが、小麦粉を薄く引いて、ネギや鰹節、生姜などの具を乗せる「乗せ焼き」や、生地に混ぜてから焼く「混ぜ焼き」もあり、この作り方はほぼお好み焼きだなと言える郷土料理です。

ちなみにお好み焼きの起源としては、「洋食焼き→お好み焼き」という説が一般的です。しかし、各地に違う名称で呼ばれる洋食焼きのような郷土料理があることから、どうも洋食焼きが流行る前にすでに同様の郷土料理があったと考えるのが自然です。(先に洋食焼きが浸透していたなら、郷土料理も「洋食焼き」と呼ばれているはず、、、)

これらのお好み焼きの前身ともいえる郷土料理の総称を「ご当地うす焼き」として、今回は各地に残る「ご当地うす焼き」についてレポートします。

【考察】ご当地うす焼きから洋食焼きに発展した!?

洋食焼き(一銭洋食)は明治時代には存在していたと言われており、その「洋食」というネーミングからもウスターソースが日本に入ってきてからということがわかります。

では「うす焼き」はいつからあったのでしょうか。前述しましたが、一銭洋食が全国的に流行ったとすれば、それ以降に「うす焼き」が誕生した場合、名称が各地で変わることは考えにくいので、一銭洋食が流行る前、つまりソースなどの洋食文化が入ってくる前に「うす焼き」があったのではないかと考えられます。

うす焼きの起源については明確なものは発見できませんでしたが、信州の郷土料理「おやき」については「縄文時代の土器から粉を練って焼いた痕跡が発見された」という興味深い記事がありました。「おやき」は水で溶いた小麦粉(ないし蕎麦粉や米粉)で生地を作り、中に野菜等の具材を入れて焼いたもので、信州地方に伝わる郷土料理です。おやきが縄文時代からあったのなら、うす焼きもずいぶん昔からあったと考えることもできます。

以下はうす焼き誕生の流れに関する考察です(※あくまで妄想です)。

【考察】うす焼き誕生の流れ(※あくまで妄想です)
時は明治、江戸ではなく、もっと前の時代。ある家庭の夕飯時のお話。

「お母さん、おやきできた?」
「あ、ごめん、準備するの忘れてた」
「え〜今日は『おやき』って約束したのに」
「今からだと時間がかかるし…そうだ!先に生地を薄く焼いて、それに具を乗せちゃおう」
「何それ、美味しそう」
「これはね、うす焼きっていうのよ」

これが「うす焼き」が誕生の瞬間である(完)

こんな感じで「うす焼き」が誕生した後は、おやきよりも手軽に作れると評判になり、全国各地に広がっていく…と妄想してみましたが、よくよく考えると、鉄板のような器具が普及していないと「水で溶いた小麦粉を焼く方が早い」という発想は出てこないかもしれません。「おやき→うす焼き」という流れはあまり現実的な考察ではない気がします。

ちなみに通説では洋食焼き(一銭洋食)の起源は「文字焼き」とされており、文字焼き自体は江戸末期の書物などに登場する「鍋焼」から来ているとされています。当時の川柳に「文字焼の 鯛も焼物 子の料理」とあり、出店で小麦粉を溶いたもので鯛や船を書いたものを売っていたようで、それがやがてたい焼きになったり、一銭洋食になっていったとされています。

この文字焼きを見て、家庭料理でできないかと子供にせがまれてできたのが「うす焼き」という流れは自然かもしれません。やがて、ソースが入ってきて、洋食焼きといった名前で出され全国的に大人気となり、各地の郷土料理も「一銭洋食」へ変化し、やがてお好み焼きへと変わっていったということでしょう。

ご当地うす焼き百選 13/47

ご当地うす焼きと呼べる「水で溶いた小麦粉を薄く焼いて、その上に具を乗せていく」スタイルの郷土料理は名前を変えて全国に存在するようです。
以下、そのリストです。

都道府県ご当地うす焼き味、備考
岩手うす焼き具を乗せた後に醤油を塗るスタイル
どんどん焼きのように巻いて出す場合もある
山形どんどん焼きお好みソースをかけるのが基本。
もんじゃ焼きを屋台で売るために考案された説あり
群馬ぎゅうてん鉄板に「ぎゅう」と押し付けるのでぎゅうてん。
お好み焼きソースで味付け。
群馬じり焼き生地に具を練り込むお好み焼き「混ぜ焼き」スタイル
味付けは味噌が基本。昔は囲炉裏で焼いていたらしい。
→※これがお好み焼きの前進では?
埼玉たらし焼き生地に野菜などを刻んだ具を練り込んで焼く「混ぜ焼き」スタイル。
味噌味、砂糖醤油、お好みソースなど味付けは多様
埼玉フライ薄く引いた生地に具を乗せて焼く「乗せ焼き」スタイル。
ソースや醤油ダレなどの味付けが多い。
山梨うすやき小麦粉に水を加えた生地に野菜などを刻んだ具を練り込み焼く「混ぜ焼き」スタイル。生地のみのパターンもあり。味付けもさまざま。
京都ちょぼ焼き薄くひいた生地に刻んだたくあんやネギ、豚肉などを乗せて焼き、最後は畳むスタイル。大阪、京都発と言われている。
大阪ねぎ焼き基本的には生地をしいた後にネギを乗せる「乗せ焼き」スタイル。
味付けはお好みソースやポン酢などさまざま
兵庫にくてん生地をひいた後、じゃがいも、牛すじ、こんにゃく、キャベツ、ネギなどを乗せて焼くスタイル。ぼっかけ、すじ焼きとも呼ばれる
お好みソースで食べるのが基本。
奈良しきしき基本的には小麦粉に水と砂糖を入れて薄く焼く「クレープ」のような感じで、餡挟んで、おやつとして食べたりするが、ネギや鰹節をかけて焼く場合もあるとのこと。
大分じり焼き地粉を水で溶いたものを薄く焼いて、黒糖や餡をくるんで食べるクレープのようなもの。地域によって「へこ焼き」「たらたら焼き」などと呼ばれる。
沖縄ヒラヤーチー小麦粉を卵とだしで溶いて、刻んだネギやニラなどを混ぜて焼いたもの。
味付けは醤油やソースなど様々。

うす焼き→洋食焼き→お好み焼きの流れが妥当?

上記のご当地うす焼きを見ていると、ソースベースのものもあれば、味噌や醤油味のものもあります。おやきや文字焼きからヒントを得て、各地でうす焼きが食されるようになり、明治になりウスターソースなどの洋風ソースが流行し、洋食焼きとなっていったと考えるのが自然なのでしょう。

また、うす焼きといえばやはり「うす焼きせんべい」が思い浮かびます。ひょっとすると最初はせんべいを作っていて、そこから小麦粉だけで上に野菜を乗せる、といった形に進化していった可能性もありそうです。「うす焼き」という名称がそのままつけられた理由にもなりますね。

以上となります。
次にお好み焼きを作る時は、ご当地のうす焼きにチャレンジしてみるのもいいかもしれません。刻んだたくあんなどを入れると美味しそうです。